透明な「余白」の中で、人生をクリエイトする

奥深い考えを持つ白鳥氏。その考えはどこから生まれたのか――
野々口 一度白鳥さんの考えを直接聞いてみたいと思っていたため、さまざまなお話が聞けて私も大変刺激を受けています。その思考の深さは、何かきっかけがあって生まれたものなのでしょうか?
白鳥 10代の頃に病気を通じて、親の顔が見られること、会話ができること、同じ食卓を囲めること。そうした日常の尊さを強く感じるようになりました。同じ日々が穏やかに続いていくこと。それ自体が、とても大切なことだと思っています。その経験をきっかけに、自分に何ができるのか、人に何かを届けられないかと考えるようになり、「美」という領域を選びました。美容師として歩み始めましたが、「美とは何か」を考え続ける中で、美容室という枠にとどまらず、自然と領域は広がっていきました。その広がりは、はじめから内側にあったものだと思っています。昨年には、私たちの「美意識」を通じて何ができるのか、その可能性をさらに広げるため、介護について学ぶ時間も持ちました。関わる一人ひとりを大切にしながら、自分なりの形で価値を届けていきたいと考えています。
野々口 白鳥さんの思考の深さや強さは、そのご経験に由来しているのですね。シンプルだけど強い。濁りのない真っ直ぐな軸を感じます。きっと多くの人は当たり前の日常の幸せに気づかないまま生きている。でも、その幸せを忘れず、言葉や行動に繋げていくことの大切さに改めて気づかされます。
白鳥 僕が大切にしているのは、思いやりだけなんです。会社のコンセプトも「おもふ」ということです。
美容師をはじめ、技術を持つ人は、一般の人から見ると魔法使いのような存在だと思います。その力をどう使うのか。そこに、その人の在り方が表れるのだと思います。その力をどういった方に使っていくかが重要です。美容師としてテクニックを磨くだけでなく、さまざまなことに触れて、学んで、自分を武装して、最終的には裸の人にそっと服を掛けてあげられるような人になってほしいとスタッフにも伝えています。
僕自身、複数の領域にまたがる活動をしていますが、すべては「おもふ」の延長にあります。異なる領域に見えるかもしれませんが、自分の中ではすべて一つながりのものです。
野々口:技術を「誰かのための武器」と捉える。私も東京で13年ブランドを続けてきましたが、スピードに追われる中でその「当たり前」の尊さを見失いそうになることがあります。白鳥さんの言葉は、今の私に深く響きます。

「言葉を急がないということ」
野々口:現在複数のプラットフォームを運営されていますが、スタッフの育成で意識されていることはありますか?
白鳥:技術指導よりも「思想」を伝えることを大事にしています。何か気になっても、あえて「一度時間を置くという姿勢」をとるんです。そうすると、大抵のことは言う必要がなくなります。自分のストレス発散やマウントのために怒ることはしたくないですから。
野々口:「一度時間を置く姿勢」!ついその場で正そうとしてしまいがちですが、白鳥さんのようにスタッフを「雑に扱いたくない」という愛情があればこそ、待てるのですね。
白鳥:彼らには、単なる美容師ではなく、自分の人生を自由に設計する「人生のクリエイティブディレクター」であってほしいんです。僕自身は代表というより、その存在を支える側でありたいと思っています。

「限りなく透明に」地球の循環の一部として生きる
野々口:白鳥さんの今の「ムード」は、どんな方向に向いていますか?
白鳥:最近は、心と身体のバランスのような、より根源的な感覚に意識が向いています。あとは、なるべく余計な負荷をかけずに在りたいという感覚が強くて、環境や循環の中で、無理なく自然に存在していたいと思っています。
野々口:「透明であること」。私のブランド『SYAN』も、理想の女性像として「抜けるような青」というイメージを掲げているので、どこか通底するものを感じます。東京に過ごしていると日々が慌ただしくて、理想像や理念があってもすぐに濁ってしまうと感じます。こうした思いが実現できているのは、京都という街も影響しているのでしょうか?
白鳥 あるかもしれません。京都で店を開いたことで、さまざまなジャンルの人と関わるようになりました。伝統が息づく街の中で、それぞれの営みを丁寧に捉えている方が多い印象があります。街の距離感もあって、衣食住を含めたさまざまな領域が、自然と影響し合っているように感じています。そうした環境の中で、自分の考え方も少しずつ変化してきたのかもしれません。
野々口:白鳥さんのお話を伺って、私も京都という場所で新しいアクションを起こしたいという気持ちが強まりました。東京という「第1シード」で走り続けてきた今、ようやく自分の「本質」と向き合う準備ができた気がします。白鳥さんが今後注力されていきたい新しい取り組みなどあれば教えていただきたいです。
白鳥 今の時代、アナログな交流の場は少しずつ減ってきています。その中で美容室は、世代や立場を越えて人が自然と集まる、数少ない場所のひとつだと思っています。だからこそ、髪を切るだけにとどまらず、街や人にとって意味のある時間や体験をどうつくれるかを考え、少しずつ広げています。
例えば、アートギャラリーを起点に、写真や食事、身体、音や衣服といった領域を行き来しながら場をつくっています。その時、その人にとって必要なものを、形にとらわれず差し出していく。美容室は、定期的に訪れ、一定の時間を過ごす場所です。その時間の中で、少し整っていくような感覚をつくれたらと思っています。そうした可能性を、これからも探っていきたいと考えています。
野々口 想像以上のお話ばかりですね、私も年齢を重ねた先に、京都に店を持てたらいいなと思うこともあります。
白鳥 おすすめですよ、京都。東京と比べて時の流れが穏やかです。街中に店がありながらも、少し行けば自然が山紫水明に感じられて、今の自分にちょうどいい。明るい日差しが入る店内は、昼間は電気を付けずに営業しているほど。日の光と共に暮らせることに喜びを感じます。
仕事ばかりになると生きている意味がなくなってしまいます。僕は好きなことをして食っていくというのが目標でもあるんです。今年は寿司職人養成講座に通おうと考えているんですよ。好きなことを全部仕事にして、軽やかに遊ぶように生きていきたい。
ぜひ野々口さんにも、ご自身の理想の場を通じて人生の余白を表現してほしいですね。京都だから叶えられるものが、きっとあると思います。
野々口:ありがとうございます。白鳥さんのように、ノイズに邪魔されず自分のムードを研ぎ澄ませる場所。いつか京都で、白鳥さんとまた新しい景色を見られることを楽しみにしています。
AREA:Kyoto
Stylist:白鳥秀紀 Shiratori Hidenori

千葉県出身。東京の美容専門学校を卒業後、ニューヨークへ。帰国後、京都にヘアサロンをオープン。現在「haku kyoto」「kokyu kyoto」「su kyoto」の3店舗を展開。新しいヘアサロンの在り方を提案し続けている。

