DaBで長年ディレクターを務めてきた河原木佑弥。
2024年からはDaBの新ブランド「MUUT」で新たなディレクションへの道を歩み出している。今の“河原木佑弥”はどのようにして生まれたのか。その世界に迫る。

-どんな時代でも、自分らしさを取り入れる。何年経っても廃れないことが僕の目指すところ。
僕の場合、美容師になるのは自然の流れでした。
というのも、母が美容師で。地元ではカリスマ的な存在であり、幼い頃から成功例が目の前にあったんです。昔から決めたら一直線のタイプなので、中学生の頃には「東京で美容師になる」と周囲に語っていました。「パリに行って、世界でNo.1のヘアメイクアップアーティストになる」と掲げていた時代もありましたが、今は東京が一番。様々なことにチャレンジでき、自分を成長させてくれる街だと思っています。
僕の中では、美容師業においてのクリエイティブとサロンワークは別物。自然と切り離して、それぞれの仕事に向き合っています。コンテストへの参加など、クリエイティブの世界はもちろん好きです。でも、どちらか一方だけが優れていて、どちらか一方だけが重要という話ではありません。どちらもバランス良く行っていくことが、自分にはちょうどいいと思っています。
もちろん、それにはそれぞれのシーンに適したアウトプットをしていかなくてはなりません。発想力、技術力、仕上がりのデザイン。求められる力はそれぞれ違いますが、その軸はどちらも同じだと思います。
僕の中でそれは月日が経ってからスタイルを見ても格好いいと思われること。僕のInstagramを遡ってもらっても「あの頃はこれが流行っていたね」とはならないと思います。クリエイティブに関しても、サロンワークに関しても、周りには「先を見ていた」「あのときからもうやっていたんですね」と受け取ってもらえると思います。
そのためには、トレンドど真ん中は打ち出さず、自分の中で自分なりに咀嚼してアウトプットしていくことが大切。ブームだから、と早々に飛びつくことはまずありません。お客様に提供するなら自分の中で落とし込んでから。練習を重ねて、クオリティに納得できて初めて提案を考えます。
だから闇雲に情報をインプットすることもありません。
ふと目についた作品からテクニック面を参考にすることはあっても、デザイン面では絶対に遮断しますね。人の真似はしたくない。人と違うことをやりたいですから。
ヘア業界にかかわらず、トップメゾンのデザイナーは同じような情報選択をされている人が多いと思います。
情報を得る先は変わることもありますが、僕の場合は時が経つとまた巡ってくることも多いです。雑誌や写真集、映画、音楽、InstagramにYouTube、いろいろな物を見ます。どんなジャンルでも直感で「いいな」と思った作品があれば、必ずクリエイターの名前をチェックします。繰り返していると、何度か同じ名前を目にする機会があるので、そういう人を自分の好みに合う人としてインプットリストに追加します。今の自分とは合わないな、という時もありますが、何年か後にまた同じ人の作品に惹かれる時がくるんです。不思議なものですよね。

-DaBで培われた、揺るぎなき姿勢。
僕は美容学校卒業後DaBに入店し、以来DaB一筋の経歴です。
オーナーの八木岡から教わったことが、すべて今の僕に繋がっています。新人のころ厳しくいわれていた一つが、ブランド意識。DaBという看板を背負って働く重みや、そのブランドを守るために自分自身どうあるべきかを学びました。当時は他店の美容師と交流することを良しとしない世の中でした。自分に必要な情報をどう選び取るか、それをどう自分に活かしていくか。きちんと考えるよう徹底的に鍛えられたことが、自分のインプットの基礎になっていますね。
他にも、DaBではデザインのフレームワークに時間をかけています。それとなく形を作って終わりではない。それは本当に自分らしいデザインか、じっくりと向き合います。何度も自問自答し、時には周りに聞き、納得のいく作品へと完成度を高めていくんです。この思考は、新店のMUUTを任されるようになった今も変わりません。
代々若手に伝え、継承されていくDaBのマインドですね。

八木岡からは、サービス精神についても自分の人生観を変える教えを受けました。八木岡はとにかく人を褒めるんですよ。お客様のいいところを絶対に見つけ出す。よく見て接していればいいところは必ず見えるという話は衝撃的でした。
そうして僕が行き着いた美容師という職の神髄は「究極のお節介」。
僕ね、自分の容姿は正直どうでもいいと思ってます。
でも人の容姿が良くなることは最高にうれしい!
どれだけ時間がない日でも、お客様と接して「この人は切った方が絶対に素敵になる!」と感じたら絶対にカットを勧めます。お節介すればするほど素敵な姿に近づけるんだから言わずにはいられないですよね。
施術を終えたお客様には「誰かに早く会いたい」「この姿を見せたい」と思って帰って欲しいんです。
だから、というわけではないですが、お客様に対しても、スタッフに対しても、他人に言われたくないことでも言ってしまうタイプです。言いっぱなしではありませんよ。「プラスに変えること」は忘れません。
例えば、面長のお客様に対したとき
「あなたは面長ですね」とは言いづらいもの。
でも僕は伝えます。
伝えた上で、それを解決できる提案をする。
言ったからには素敵に仕上げる。
自分の発言に責任を持つ。それがプロです。
コンプレックス解消のお手伝いができることは、美容師の最高のやりがいだと思います。
スタッフに対する指導も同様ですね。
もっとこうしてみたら、もっとあなたは素敵になる。
そんな向き合い方を大事にしています。
あなたをちゃんと理解している、だからこうした方がいい。あなた自身もそう言われたら安心しますよね?相手を気にかけて、寄り添っていく。
美容師ってお節介の極みだと思います。
-新しいトレンドは、いつも反骨心から生まれる。
僕がインスピレーションを受けるのは、音楽や洋服から。
カルチャーが出発点で、ヘアスタイルは後付けですね。自分が好きな世界観の追求はもちろんですが、お客様と接するためには時代の流れをキャッチすべく様々な音楽やファッションをチェックしています。

最近のファッションのブームは、コロナ禍で流行った着心地のいい服から、カチッとしたスタイルに変わってきました。この先は、その傾向が高まっていくと僕は読んでいます。2007~2010年に似た印象です。人は、飽きると逆に進みたくなりますから。70年代や80年代の不良カルチャーも反骨心から生まれました。世の中へ訴えかけるメッセージが強くて、彼らは一般見解からはみ出た「不良」と呼ばれたんですよね。でも、こういう自分でいたいという思いは、誰もが心に持っているもの。そうした感情が爆発したとき、新しいトレンドが生まれてくると思うんです。今はコロナ禍で生じた窮屈さを脱して新しい世界へ勢いよく出て行く、時代の変換期ですね。
音楽も近年はテクノやヒップホップが再び熱くなり、最近はハウスっぽいものに移ってきました。次は、ここにエレクトロが加わり新しいジャンルが生まれる気配も感じます。音楽とファッションは昔から紐付いていますよね。スキンズ、パンク、モッズとか。そこにヘアをどう組み合わせるかが僕の仕事。過去のリバイバルもあれば、全く違う新しい表現が生まれることも多い。世界は無限に広がっていて、考えるだけでわくわくします。
カルチャーへの感度を高める一方で、美容師としてはテクニックもおろそかにしてはいけないと常々感じています。クリエイティブ面で名を上げるには発想力や独自性が重要ですが、そこには確かな技術力も伴わなくては良い美容師って言えないのではないでしょうか。技術は自分を裏切らない。備えておいて絶対に無駄になりません。ワンレングスに切ったり、ブローをしたり、昔から残っている手法はこれからも絶えることはないでしょう。基本こそ技術力を高めておくことが自分の武器になります。
アウトプット・インプットの繰り返しも大切です。
見聞きしたテクニックを自分の物にできるかは、実体験で繰り返すしかありません。まずは人の技を真似てみることから。とりあえず自分でやってみると疑問点や難しさが見えてきます。そこからじっくりと考えたり、周りに質問をしたり。再度取り組んで、また考える。その繰り返しがだんだん自分を成長させてくれます。
成長は短時間で済むものではありません。
でも、諦めないでほしい。
苦しくならないように、直感的に楽しむことを忘れずに。「教えなきゃ・教わらなきゃ」ではなくやってみたいことに素直に取り組んでいくことが大事だと思います。

MOOOOD vol.2 編集長
DaB MUUT店長/サロンディレクター
河原木 佑弥

